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ありそうでないテンプレは突然に 後編

Author: 靴下 香
last update publish date: 2026-06-04 06:50:25

 漫画のような展開を喜びつつありがたがるべきなんだろうが、実際に起こってしまえばどうしたらいいのか分からなくなるというのが、偽らざる本音というもので。

「あー……えっと、上がられ、ます?」

「は、はいっ、その、おじゃま、します」

 混乱したままの頭でありがとうございますと言えたのは良い。

 が、鍋を受け取っても帰ろうとしない早瀬さんへ言えたのはそんな言葉だった。

 部屋にあげてどうするんだって話なんだけど、いやでも帰ろうとされなかったし……どうしたらいいんだ。

「あ、やっぱり、うちと同じ間取り、なんですね」

「そのはず、ですけども……あ、あぁ、お茶淹れますね? 座ってて下さい」

「い、いえいえっ、わ、私がやりますので、管理人さんこそ座っていて下さいっ」

 え、えぇ?

 いくら同じ間取りでもわからんでしょうに。あ、止める間もなくキッチンスペースに行かれた。

「……さーて、どういう状況だ? これ」

 今日から始まる管理人生活、その初日に同じマンションに住む若奥様がご飯を余らせたらしく持ってきてくれた。

 改めてこれだけ考えるとなんともときめくシーンなのかもしれないが、戸惑いしかないよ。

 え? これってあれか? ご飯を作ってきたんだら相談に乗ってくれとかそういう取り引き?

 いやいや、相談に乗るってのは業務だしさ、別にお礼がどうのって話にはならないよね?

「えーっと……」

 視線を早瀬さんに戻してみれば案の定と言うべきかお茶がどこにあるのかわからないらしく、あちこちを探している。

「う……」

 そして言いたい、そんな恰好で前かがみにならないでくれと、ケツを突き出さないでくれと。

 早瀬さんは深めのVネックシャツにデニムのショートパンツなんていう朝会った時と同じ格好をしていた。

 もろに体つきが分かる格好だ、はっきり言わなくてもエロい。

「あ、ここ、かな?」

 一番下の棚に入れていたお茶っぱ缶を取り出して身体を起こせば、シャツからおっぱいがまろび出るんじゃないかってくらい揺れたし……あぁもうこの人わざとやってんのか? だとしたら許すまじだよ。

「あ、あの? これ、使ってもいい、ですか?」

「え? あ、はい。ありがとう、ございます」

「い、いえいえっ! え、えと。一緒に、持ってきたのも温めたりしちゃって、いい、ですか?」

「も、もちろんです。自由に、使って下さい」

 もしかして俺は早瀬さんと結婚していた? 俺はいつの間に結婚指輪を彼女の指にハメたんだ……ちんぽはハメてなかったと思うんだけど。

 って違う、いやほんとどういう状況だよ、この人何考えてんだ?

 そんな薄着でさ、襲って下さいみたいな恰好で若い男の部屋に一人で来るなよと。

 旦那は知ってるのか? 知ってたらなんだ? 美人局的な? 手ぇ出したらドッキリ番組よろしく突入されの、慰謝料請求案件か?

「ふふっ」

「うぐ……」

 こっちの気持ちを知ってか知らずか、どことなくキッチンに立っている早瀬さんは機嫌が良さそうだ。

 それこそ朝に会った時やチャイムモニター越しに見た陰を感じる雰囲気は何処にもなくて、無意識にだと信じたいが、鼻歌に合わせてリズムを取って、そのたびに胸がぷるぷると震えている。

「まさか、ノーブラ? い、いやいや痴女だよそれは」

 誘われてるのだろうか、貞淑そうに見えたその本性はとかエロギャップはいかんですよ。

 それでも、ついつい盗み見てしまう。

 揺れる胸、その先端はぽっちりとした膨らみがあって。

「……いかん」

 気づけば痛いくらいに勃起していた。

 我ながらこの性欲の強さは如何ともし難いな。

 落ち着こう、落ち着きたまえ。

 キッチンへと泳がせてしまう視線を無理やり切って、テレビを点ける。

 卒業と同時に切り替えようと思っても切り替えられない部分はある。

 特に三年生から卒業までは、バイトの事を含めなくても爛れた生活を送っていた身だ。良い女を見たらどうしてもこう、うずいてしまうというか、なんというか。

「ふぅ……」

 そういうのは、卒業と同時に終わり。そう決めた、約束しあった。

 何より早瀬さんは人妻だ、マッサージと言う名の言い訳が使えない以上、我慢できなくても我慢しなきゃただの犯罪になってしまうわけで。

「か、管理人、さん?」

「っ……は、はい」

 声に振り替えれば、ダイニングテーブルの上にどこから見つけたのか鍋敷きを敷いて。

「お待たせ、しました。お口に合えば良いのですが……」

 肉じゃがの湯気の向こうから、胸の谷間を強調しながらおずおずと言ってきた。

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